常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
ソファの前のローテーブルにケーキと紅茶を配り終えた亜湖が、そそくさと大地の隣に座った。
……おい、亜湖。なぜ、そっちに座るっ。
田中常務は対面になった娘を睨んだ。
二階から降りてきた亜湖は、サーモンピンクのノースリーブのワンピに、アイボリーのサマーニットの半袖ボレロを重ねていた。
正統派スリーピースの大地の隣で、清楚な風情の亜湖はしっくり馴染み、だれがどう見てもお似合いの二人だった。
「亜湖さんと、結婚を前提としたおつき合いをしたいと思っております……どうか、お許しください」
大地が頭を下げるのと同時に亜湖も頭を下げた。そのタイミングが……互いの呼吸がぴったり合っているのが、田中常務には気にくわない。
「……あなた、なんとか言ったら?」
敦子が業を煮やして言う。
「この子たち、頭上げられないわよ」
「わ、私は……認めんと、昨日、言ったじゃないか!」
田中常務は腕組みして言う。
「おとうさん、大地のどこが気に入らないのか言ってよ!」
顔を上げた亜湖が、信じられないくらい冷たい目で父親を見る。
……そんなの、全部に決まってるじゃないかっ!おれが今まで、こいつからおまえをを守るために、どれだけがんばったと思ってんだっ!!
「亜湖!……男の名前を呼び捨てにするような女に、おとうさんは育てた覚えはない!!」
そんなの今は関係ないでしょ!?と、亜湖の顔が険しくなる。
「……亜湖」
大地が亜湖の手をそっと握って、落ち着かせようとしている。
……おい、こらっ、親の前で、なに手を握ってやがるっ!それに、上條っ、またどさくさに紛れて、呼び捨てにしてやがるなっ!?