常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「上條さんと紗香ちゃんは会長に……君のおじいさんだね……結婚を猛反対されてね。
紗香ちゃんから遠ざけるために、上條さんは全国各地に飛ばされたよ」
当時に思いを馳せる常務は、遠い目をしている。
「結局、もし結婚を許してくれないなら、上條さんが会社を辞めて紗香ちゃんをかっ攫っていく、って話になってね。我が社で驚異的な営業成績をあげていた彼を、他社に流出させてなるものか、と重役たちが役員会議を開いて会長に『緊急動議』をチラつかせて説得したんだよ」
仏頂面だった常務もついに、くくっと笑った。
「おれも『証券マン』になったからには、ガンガン営業して、客の金で『売った!買った!』をやりたかったけど、目の前に『天性の相場師』の上條さんがいたからなぁ。上を目指すために仕方なく、経理の道を選んだんだ。社長……水島さんは、総務で右に出る者がいないほど、株主対策が完璧だったからね。今となっては、おれたちは絶妙のバランスだったと自負しているけどな」
大地は悟った。だからこそ、この逆風の中でも我が社はまだ踏ん張っている方なのだ。
「上條さんと紗香ちゃんが結婚してからも、会長の嫌がらせは続いたなぁ。紗香ちゃんは全国を渡り歩く上條さんが、東京本社に戻って来られるよう、君と東京に残って踏ん張っていたんだよ。
……ま、君も入社したことだし、今は安心して大阪へついて行ったけどな」
……そうだったのか。
母親のことは、天真爛漫なお嬢さまがそのまま大人になった人だとばかり思っていた。