常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……だれか、お客さん?」
ギンガムチェックのボタンダウンの半袖シャツにチノパンを身にまとった背の高い男がリビングを覗いた。ちょっと神経質そうではあるが、理知的な風貌をしている。横長スクエアのリムレスの眼鏡がすごく似合っていた。
田中常務を若くして、ぐっとオシャレにしたみたいだ。
その男を、ソファに座った面々が、呆然と見つめる。
「……おにいちゃん!? 」
思いがけないことに、亜湖が叫ぶ。
「どうして帰ってくるの!?」
「諒志、ちっとも帰ってこないのに? 」
敦子も胡散臭そうに問いただす。
「なんで帰ってくるのが、よりによって今日なのよぉ!?」
……せっかく和らいだ空気が。
あぁ、またややこしくなりそう。
亜湖は顔を顰めた。
父は一見、杓子定規に見えるが、実は情に訴えればわかってもらえるアナログなところがある。
しかし、デジタル人間の兄は論理的に整合性が認められなければ決して首を縦には振らない。
難攻不落なのは……真のラスボスなのは、
父親よりも……兄なのだ。