常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……もう、バカなこと言ってないで、ケーキ食べなさい。せっかく大地くんが持ってきてくれたのに」
諒志にソファを譲ってダイニングテーブルに移った敦子は、呆れ果てた顔をしながらも彩り鮮やかなフルーツケーキを食べていた。
「……だって、おにいちゃんが」
亜湖はいちごとパイのミルフィーユに、フォークをさくっ、と入れた。
「やめんか!……こんなときに兄妹ゲンカなんて、みっともない」
田中常務は苦々しげに、定番のいちごショートへフォークでぶすっ、と刺した。
「……大地、ホレたハレたっていうだけで亜湖と結婚したいって言うんなら、おまえらの仲をぶっ壊すからな。結婚はなんだかんだ言っても、経済力だ。女房を路頭に迷わすような男に大事な妹はやれない」
諒志は甘さ控えめのレアチーズケーキを、フォークですーっと縦斬りにした。滑らかなクリームと土台のタルトの断面が現れる。
「おまえは確か、あさひ証券では『御曹司』に近い立場だったよな?将来、会社を背負っていく覚悟はできているのか?証券業界は過渡期で、ネット証券が猛威を振るっている現在、これから会社をどう導いていくつもりだ?」
大地はフォークを持ったまま、カカオの含有量が多い漆黒のチョコレートケーキを見つめる。
「来年、本社に部長職で戻ったら……ぜひやりたいことがあります」
田中常務のメタルフレームの奥にある鋭い目が、ぎろり、と大地に向けられた。