常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
規模的にも、他店舗への波及効果にしても、あさひ証券発祥の地の本店「兜町」は、先陣を切ってこの改革案を実行するのに最適な店舗なのである。
「ただ、丸の内に戻ってこの改革案を実行するには、かなり強い権限が必要です。いくら本社でも、並みの本部長職では無理でしょう」
上條課長の目は、獲物を見つけた肉食獣のように見えた。それが今、まっすぐ田中常務に向けられている。
「私は父である専務に、経営企画本部長のポストを要望しています」
田中常務は息を呑んだ。
経営企画本部長は、並みいる本部長の中でも筆頭で、常務である自分のすぐ下のポストなのだ。
常務の頭に今の経営企画本部長の顔が浮かぶ。
定年までにはもうしばらくあった。確か、大学生と高校生の子どもがいたはずで、今一番子どもに金がかかる時期だ。
「もし、この改革案にご賛同いただけるのでしたら、どうか常務の方からもお力添えいただけませんか」
上條課長は頭を下げた。
常務は眉間にシワを寄せ、腕を組んだ。
経営企画本部長だけではない。この改革案を聞いて苦虫を噛み潰したような御面相になるであろう取締役たちの顔が、今から目に浮かぶ。
彼らはたとえ会社が危機的な状況にあったとしても、自分の定年までは変革を認めないだろう。