常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

「……亜湖、覚悟はできているか?」

田中常務がメタルフレームの奥で笑わない目をしている。

「上條はこれから大リストラを敢行するんだ。会社中から蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われ、末代まで祟られるような恨みを買うぞ……おまえ、耐えられるか?」

亜湖は神妙な面持ちで、こくっ、と肯いた。

具体的にどう会社を改革していくのかは、今知った。けれどすでに、大地を支えることも、大地と一緒に泥をかぶることも、覚悟している。

「……うちに挨拶に来たんだから、上條専務のところにもちゃんと挨拶に行けよ」

亜湖はにっこり笑って、こくっ、と肯いた。

「来月のお盆に両親が東京に帰ってきますので、そのときに両親ともども、こちらにご挨拶に参ります」

大地がそう言うと、

「あらぁ、うれしい!上條さんと紗香さんに会えるのねー!!」

と、敦子がはしゃぎ出した。逆に亜湖は不安そうな顔になる。

「……なんか、緊張するなぁ」

「亜湖なら、大丈夫だ」

大地が昨日、大阪に電話して経緯を軽く報告すると、亜湖のことを知らないはずの母親が、なぜかありえないくらいのハイテンションで大喜びしていた。


「……あのさ、おれも近い将来、結婚するかも。金融庁の上司の娘との見合い話があってさ。
今日はその日取りを決めるために帰ってきたんだけどな……って、だれもおれの話聞いてないなっ!?」

諒志は一人ふてくされていた。
これでも、職場ではクールで近寄りがたい「切れ者」のイメージなのに。結婚するほどの女性にはまだ巡り合っていないが、遊ぶ相手には不自由していないほどモテるというのに。

そのとき、インターフォンが鳴った。
はーい、と敦子が返事する。

「あら、お寿司が来たみたい。今日は特上よっ!
……諒志、独り言をブツブツ言ってるんだったら玄関まで取りに行ってちょうだい」

ふてくされたまま、諒志が寿司を取りに行く。

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