常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

「……なにも、入社後、おまえだけが苦労したわけじゃないだろう。慶人(けいと)だって同様だ」

慶人、というのは社長の息子で、本店営業部の営業一課の課長をしている水島(みずしま) 慶人のことだ。

慶人の母親の水島 清香(きよか)は大地の母親の紗香の二歳上の姉で、妹と同じく、社内で優秀と認められた慶人の父親の水島 壮一郎(そういちろう)と結婚し、慶人を産んだ。

ちなみに、社長の壮一郎と専務の真也は、同い年の同期入社である。

「慶人だって、入社後アメリカで経営学修士(M B A)を得て、帰国後証券アナリストの資格を取ってるぞ」

いつの間にか、対面のソファーに座っていた専務が、大地の心を見透かしたように言う。


大地と慶人も同じ年に生まれた。
二人とも母親似ではないので、似ていない。

どちらも一八〇センチ近くの長身だが、黒髪の大地はやんちゃな少年っぽさをどこかに残したシャープでクールな風貌で、慶人はハーフかクォーターに間違えられるほどの天然の茶髪でやわらかくて優しい雰囲気を漂わせている。

中学・高校は進学校で有名な、同じ私立の男子校だったが、その後大地はW大の政治経済学部へ、慶人はKO大の経済学部へ進学した。

入社後、アメリカへ留学した際のビジネススクールも、大地は東海岸ニューヨークのウォール街に近いコロンビア大学であったのに対し、慶人は西海岸シリコンバレーのIT関連の研究所に近いスタンフォード大学と、毛色が対照的な大学院だった。

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