常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
* そのときの「田中さん」*
……それにしても、不毛な会議だったなぁ。
「田中さん」は四階の大会議室で、つい先刻まで開かれていた店内の全体会議を振り返って思った。
せっかく、課長たちからは具体性のある活発な意見が出ていたのに、保身しか考えていない本店長からことごとくハネられていた。
最後の営業部長のかけ声、「店内一丸となって闘い抜くぞー!エイエイオー!!」ってあれ、なんだったんだろう?
だれと闘うのかしら?……もしかして、お客様!?
「田中さん」は今、自分が主任の中では最年少ということもあって、自主的に会議の後片付けをしていた。と言っても「生茶」のペットボトルと紙コップを集めてゴミ袋に入れるだけのことだが。
しかし、これだけのことでも、明日、出勤してきて早々に、会議室の片付けをしなければならない総務の子の手を煩わせずに済む。
それに、ペットボトルは飲みかけだと各自で持って帰ってくれるからゴミもほとんどない。
「……結構な時間になっちゃったなー」
ブルーのスカーフにパステルブルーのストライプの白いブラウス姿の「田中さん」は、これから制服から私服に着替えなければならない。名古屋にいる父親に、何時ごろ帰れるか「報告」もしないといけない。
そんなとき、不意に後ろから声をかけられた。
「……田中さん、だよね?」
「田中さん」は声の方に振り向いた。
そこには、今の流行りの細身のチャコールグレーのスーツを着た、長身の男の人が立っていた。