常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
Chapter4
* 営業一課の田中くん *
「……山田、もう上條課長には話したのか?」
田中 望は、自分のデスクにめり込むほど、項垂れる山田に尋ねた。
彼は営業一課の所属だが、苦境に立たされた二課の山田のために隣の島から渡って来ていた。美しき同期愛である。
「だって、連絡が取れないんだろ?期限は明日までじゃん!どうすんだよ!?」
田中 望が詰め寄ると山田が、がばっと顔を上げた。
「だって、上條課長、超怖えぇぇんだもの!絶対、めちゃくちゃ怒られるっ!! それでなくても、毎日毎日おればっか怒鳴られてんのに……」
充血した山田の目が潤みだした。
「上條課長は熱しやすく冷めやすいタイプだからさ。ちょっとの間のガマンだよ」
田中 望は興奮する山田を宥めた。
「……それに比べて、水島課長が怒鳴るときはさ、普段の王子さまぶりとは別人じゃね?ってくらいマジ怖いし……理路整然とネチネチ責めてくるしさ……」
いつの間にか直属の課長への愚痴になっている。
新入社員がまだ新人研修中の今、彼ら二年目が一番下っ端だった。
後場が引けたあとの今、二人の課長は営業部長との会議に入るため、席にはいない。
だから、こんな愚痴もこぼせるのだ。