常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……おまえと慶人、丸の内から兜町へ異動して何年になる?」
専務が尋ねる。
「丸三年、だな」
大地が答える。
「会社も大金を使って、アメリカまでおまえらを遊びに行かせたわけじゃない」
……寝る間もなく、死ぬほど勉強しましたけど⁉︎
「何のために『副社長』のポストを空けてあると思う」
専務が大地を見上げた。片方の口角だけがあがっている。
「……今日開かれた重役会議で決まったことを言う」
ソファーの背もたれにふんぞり返っていた大地が、あわてて身を起こす。
「おまえも慶人も、来年、丸の内に戻す。配属はこれからだが、部長クラスのポストであることは間違いない」
大地も慶人もまだ三十代に入ったばかりである。
「……おまえ、丸の内に戻ったら、また『売った!買った!』をやりたいか?」
大地の目を覗き込む。
覗き込んだ目の方も「売った!買った!」が好きだった。
社長である慶人の父親の壮一郎は労務関係や株主対策が得意の典型的な総務畑だったが、専務である大地の父親の真也は根っからの営業マンの叩き上げだった。