常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

『ずっと……大学のときから……好きでした。
わたしを、せめて今夜だけでも……朝まで……帰さないでください……』

初めて一緒に呑みに行ったあの日の夜、田中 沙恵子は酔った勢いで、大地への積年の想いを告白した。

それに対して大地は、
『はっきり言って「酔った勢いで」とかいうのは面倒なんだ』
と、きっぱり告げた。

経験上、こんなふうにズバリ言ってやった方が、相手も未練なく吹っ切れるということを知っていた。そのくらい、今までに何度となく「今夜一晩だけでも」という女の子からの「決死の覚悟」をぶつけられてきた、とも言えるのだが。

そもそも「今夜だけでも」という意味も不明だ。

大地はセックスというのは、お互いのカラダの相性もあるし、なによりお互いの好みを探りながら添ったり添われたりして育んでいくものだと思っている。一朝一夕にはいかないのだ。

にもかかわらず、「今夜だけでも」というのは。

……この一晩でおれの実力を全開で見せろ!っていうことか!?

大地にとってそれは「果たし状」以外の何物でもなかった。

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