常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
『それに、おれももう三十だし、次につき合う子とは結婚を考えてる』
田中 沙恵子はかなり酔っていて翌日どこまで覚えているかわからなかったが、それでも、大地は真摯に言う。
『そしておれは、将来的にどんな形であれこの会社を背負う義務のある家に生まれている。だから、おれが結婚するのは、この会社の経営に役立つ女だ』
これは、母方の血だ。創業者一族の血が、そして末裔としての義務が、そうさせるのだ。
たぶん、慶人もそうなんだろう。そして、蓉子も。
田中 沙恵子は常務の娘ではない。
常務の娘は東京生まれの東京育ちである。
そして、あさひ証券へは「東京エリア限定の総合職」として入社している。
その夜は、大通りまで出た大地がタクシーを拾い、彼女だけを乗せて帰らせた。