常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
* そのときの「田中さん」*
どう見ても場末にある半地下の、看板も出ていない店の怪しげなドアを、水島慶人はまるで家に帰ったかのように迷わず開けた。
薄暗いオレンジの間接照明に照らされ、ダークブラウンの年季の入った調度品が目に入る。
正面に見える一枚板のカウンターの、一人掛けにしてはやけにゆったりしているアームソファには、ミディアムボブの黒髪の女性が座っている。
……「田中さん」だった。
水島は彼女の方へ歩いて行った。
「ごめんね、待たせたね」
彼は「田中さん」の左側のソファに腰かけた。