常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……いらっしゃいませ、慶人さま」
一分の隙もないバーテンダーが会釈する。
きっと還暦を過ぎていると思うが、背筋がピンと伸びている。
「ご無沙汰してるね、杉山さん」
水島はいつものように愛想よく挨拶した。
「この店で、ってLINEが来たとき、おかしいとは思ったんだよ」
水島はカウンターに頬杖をついて、ため息を吐く。
「田中さん」が水島に教えたLINEのIDは、蓉子がしつこい男を躱すために取得したダミーのものだった。
蓉子は「田中さん」にも困ったときには使うように言っていた。だから、水島が「田中さん」に送ったのはすべて、蓉子のサブのスマホにあった。
また、水島が「田中さん」からだと思っていたのはすべて、蓉子が考えて送ったものだった。