常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「なにをお召し上がりになりますか?」
バーテンダーの杉山が尋ねる。
「とりあえず、ビール」
水島がオーダーする。
「わーっ、慶人、おっさんになったわねー。
『とりあえず、ビール』だなんて」
蓉子が揶揄う。
「あたしも、『とりあえず、ビール』!」
杉山が微笑んで肯く。
「おまえこそ、オバサンじゃないか」
と、蓉子には呆れ顔をしながらも、
「田中さんもビールかな?」
「田中さん」にはノーブルに笑ってみせる。
「わたしはビールが呑めないから」
「田中さん」がつぶやいた。
……蓉子と違って酒に弱いんだな。
「じゃあ、カクテルでも。なにがいい?」
「針葉樹林でお願いします」
杉山は微笑んで肯いた。
彼女の和風な顔立ちと雰囲気に、その抹茶のリキュールベースのカクテルはよく似合っている、と水島は思った。