常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「あの小さかった慶人さまや蓉子さまが、こんなにお酒を嗜まれるお年に成長されたことが、うれしいんですよ」
杉山の目が潤む。彼は、毎年正月恒例の朝比奈家のパーティでもカクテルの腕前を披露していたので、水島や蓉子を生まれたときから知っていると言っても過言ではない。
「あぁ?慶人よぉっ、なんで会社であたしを無視すんだよぉっ⁉︎」
蓉子は今や、水島相手にクダを巻いて、見事にオッサン化するくらいの成長を遂げた。
幼い日の、一緒に遊びたくて、慶人や大地や双子の兄たちのあとを何度も追いかけては、いつもいつの間にかマカレていた、あの健気な蓉子はいずこへ……
「なぁにぃーっ、答えねぇ気かよぉっ⁉︎ 」
無視を決め込む水島に、とても大金持ちの娘とは思えない言葉を浴びせる。
「よぉーしぃっ、わかったぁっ!」
蓉子はスマホを手に、すくっ、と立ち上がる。
「大地に訊いてやるぅっ!ここに呼び出して訊くからなぁっ‼︎」
「うわーっ、蓉子、それだけはやめろっ!」
水島があわてて蓉子のスマホを奪おうと、必死で手を伸ばす。
「せっかく抜け駆けして来てるのに、大地に来られたらおれの計画が……」
いつも毅然と呑む酒豪の蓉子が、こんなに悪酔いする姿を「田中さん」は初めて見た。