常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……あなたも覚えていますよ」
そう言って、杉山は「田中さん」を下の名前で呼んだ。
「どうして……?」
「一度だけ、朝比奈さまのパーティにいらしたじゃありませんか」
実は幼い頃「田中さん」は一度だけ、父親に連れられて行ったことがあったのだ……「田中さん」はすっかり忘れてしまっているけれど。
「真っ赤な振袖をお召しになって、それはそれはかわいらしいお嬢ちゃんでしたよ」
杉山が目を細めた。
「あーっ、もしかして『市松人形』⁉︎」
蓉子が叫んだ。一気に酔いが覚めたみたいだ。
「きみ、あのときの『市松人形』だったんだ?」
水島も思い出したらしい。
「そう言えば『市松人形』って名づけたの、大地だったなぁ」
「田中さん」には聞こえないように、ぼそっとつぶやく。
「ねぇーねぇー、なんで次の年から来なくなったの?みんな待ってたんだよ」
蓉子はだんだん思い出してきた。
……そうそう、一番待ってたのは、大地だ。
だけど「田中さん」には、その記憶がすっぽりなかった。