常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
その代わり「田中さん」は別のことを思い出した。
「水島課長に似ている人がいます」
突然「田中さん」に声をかけられて、水島は思わず笑顔になる。
「蓉子、ほら、広告代理店とのコンパのときの……一番のイケメン」
「あぁーあぁー、新田さんねー。そう言えば……顔立ちとか雰囲気とか、似てるかも」
蓉子もうんうん、と肯く。
「……蓉子、コンパってなんだ?」
先刻までの笑顔が消え失せ、いきなり水島が不機嫌になる。
「『新田』って、どこのどいつだ?」
彼にしては口調が少しキツい。
もしかしたら、水島もちょっと酔ってきてるのかも……顔にはまったく表れてないが。
「慶人だって、コンパ行ってるじゃない!
しかも大地とか社内の人と‼︎ ほかのメンバーも知ってるんだからねっ」
蓉子に反撃されて、水島がうっ、と詰まる。
「それから、なぜか大地と総務へも行ってるよね。でも、田中千帆はダメよ。学生時代からつき合ってる彼氏がいて、もうすぐ婚約するだろうから」
蓉子はかなりの情報通だった。さすがは人事課。
……道理で、おれや大地が話しかけても赤くなったり、おどおどしたりしないはずだ。
水島や大地が急に話しかけると、大抵の女子は緊張のあまり挙動不審になるのである。
「そんなことより『新田』だ!」
水島は話を戻す。
「大丈夫ですよ……新田さんは結婚してます」
「田中さん」は助け船を出した……はずだった。
「……蓉子、不倫か⁉︎ おまえはなにを考えてるんだっ⁉︎」
水島らしからぬ、激しい口調だ。
「なに言ってんのよっ。バッカじゃないのっ⁉︎」
蓉子の顔が怒りのあまり真っ赤になる。
「バカとはなんだ⁉︎」
「バカにバカと言ってなにが悪いのよっ‼︎」
「なんだとっ⁉︎」
「なによっ‼︎ 」
……互いに引くに引けない泥仕合になった。