溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「……はい。なんとか。いったいどうしたんでしょう」
「さぁ。事故かなんかだろう」
そう言って窓の外を覗く九条さん。こんなとき背の高い人はいいな。九条さんは一人頭一個分出ているから、私みたいに埋もれる心配もない。心なしか空気も新鮮そう。
「はぁ……」
いったいどのくらい停車するんだろう。こんな状況下で何時間も閉じ込められたら、と思うと今から億劫だ。
どこを見渡しても人、人、人。汗や香水の臭いがすでにきつい。足元も慣れないヒールだし……お腹すいたし。気分悪い。
「西沢」
脂汗が出そうになる中、私を呼ぶ声が聞こえたかと思うと体がグンッと引っ張られた。
気がつくと九条さんの体に寄りかかるように、胸元へと引き寄せられていた。