溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

「わっ、あの……す、みません」
「寄りかかってろ」
「え? でも……」

そう躊躇う私に、九条さんはいいから、と強い口調で言う。
そんな風に言われたら断ることなんてできなくて、きっと重たいだろうと思いながらも、体重を預けた。その瞬間、ふぅっと息が溢れる。なんだか楽チンだ。足の痛みも軽減される。

「気分悪いんだろ? 顔色が悪い」
「……はい、実はちょっと」

なんでもお見通しだな、この人はと思いながらそう答える。それにやっぱりなんだかんだ優しい人だ、九条さんは。

仕事のことになれば怖いけど、こんなときいつも助けてくれる。鍵を忘れたときも、酔いつぶれた時も。福々亭のおばちゃんや朱音さんの件だってそう。きっと困った人を放っておけない人なんだろうな。
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