溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
私がどんな気持ちでこの面接に挑んだのか、この人にはわからないのだろう。
周りが次々に内定をもらう中、私だけ一社ももらえていなくて。焦りを募らせ、胃を雑巾のように縛られる切羽詰まった気持ちなんて。こんな冷徹な人に出会ってしまった自分の運命すら呪う。
「机上でお前のなにをわかれって? だらだらとテンプレを並べたところで時間の無駄だ。やめだやめだ、こんな茶番」
そんな私に追い討ちをかけるように続ける。今にも逃げ出したかった。
「やる気と根性だけ持って春から来い」
だけど次に出てきた言葉は全く予想外のもので、思わず、え?と声が出てしまった。
「それでいいだろ、社長」
九条さんの隣で、菩薩のようにニコニコと笑顔を崩さない社長に気だるそうに上から言う。
そんな部下の態度とは思えない彼に、社長はうんうんと納得したように頷いて、呆然とする私に視線を向けた。
「と、いうわけみたいだから。これでおしまい。お疲れ様」
呆気にとられる私に優しい声色でそう言う社長。結局用意していたその他もろもろの回答も使わないまま、九条さんの一声で私は採用になった。今まで受けた面接で一番短くて、ぶっ飛んだ面接だった。