溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
あの時九条さんが拾ってくれなければ、今頃就職浪人か、ニートにでもなっていたかもしれない。
一番怯えていた親からの非難の言葉を浴びせられずに済んだのも、上辺や体裁で人を判断しない彼のお陰だ。
◇
「西沢、これ全部やり直し」
画面とにらめっこする私の頭上に突如、低い声と共に大量の資料が降ってきた。慌ててそれを受け取り顔を上げると、九条さんが通り過ぎて行くところだった。
「えっ、やり直しってこれ全部ですか?」
「どれも配色が単純すぎる」
「そんなぁ」
「変な声出してないで、さっさとやり直せ」
うぅ、ショック。昨日あれから必死でやったのに。
「それと去年リリースした卵シリーズの第二弾を出すことに決まったから」
「えっ、卵シリーズってもしかしてあの大爆死したあれですか?」
ただひたすらタップして卵を割るというくだらないゲーム。確か考案者は八乙女さんだったような……。
「あぁ、あの時はいまいち理解されなかったけど、今回もそうとは限ないし」
どこか得意げな九条さんだが、本当に大丈夫なのだろうかと心配になる。ダウンロード数がわずか3ケタというわが社で最低の数字をだしたのだから。