溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「とりあえずその福々亭なら俺行かないっす。あぁいう所帯染みたところ苦手なんで。あ、でも飲み行く予定が出来たら絶対声かけてくださいね〜。お洒落なところ希望でーす」
真壁くんはそれだけ入念に言残すと、イヤホンを耳につけながら自分のデスクに向かった。
人の話に首突っ込むだけ突っ込んで、その気がなかったらすぐに切り替えて次。あんなんだから彼女とも続かないんだろうな。
いつも真壁くんがすぐに飽きてしまうらしく、少し前に付き合っていた子とも二週間で別れたと飲み会の席で言っていた。
「真壁のやつ。いつかしめてやる」
「は、ははは……」
彼を見据えるユリさんの視線に、本気の怒りが篭っているように見えて、私はただ笑うしかなかった。
でも彼のあの楽観的なところが殺伐とした社内の潤滑油でもあるし、基本的にはいい子なんだよな。