溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「西沢さーん、ちょっといい?」
そんな彼の背中を見送っていると、隅の席からもう一人のプログラマ、八乙女さんが私を手招きしながら呼んでいるのに気がついた。
私はユリさんにすみません、と一言断ると、彼のもとに走った。
その間ふと思った。よくよく考えるとうちの会社は個性豊かな面々が多い。
大手ゲームメーカーを辞め、この会社を設立した、影の薄い社長。
強面で口が悪くて、女嫌い(らいし)九条さん。
美と音のカリスマ、ユリさん。
マイペースで自由を貫く真壁くん。
いつも真面目で、サラリーマンのような9時18時勤務を何年も続ける唯一の既婚者、八乙女さん。そして、まだまだ未熟な私。
価値観も個性もバラバラな6人。だけどそんな私達が一つになり、切磋琢磨しながら一つのアプリケーションを創り出している。
もちろん、揉めることもある。不穏な空気が続く日もある。でも誰も投げ出さず、最後までやり遂げる。それはきっと、見つめる先が同じだからだろう。