溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「本当にどうしようもないよね、私。自分でも呆れている。相手にも迷惑がられているし、そのたびに自己嫌悪。でもバカみたいに好きなの。どんなに遠い人になったって、いつも頭の中は彼でいっぱい」
そう言って朱音さんはテーブルに置いてあった経済ジャーナルを手に取り、物思いにふけるようにその表紙を眺める。
その瞳はキラキラしていた。きっと九条さんのことを思い浮かべているんだろう。誰かを一途に思う姿がこんなにも綺麗だということ、初めて知った。
◇
なんだか勇気をもらった気がした。報われなくても、それでいいじゃないかと。
「おばちゃん! さんま定食大盛りで!」
帰り道、景気づけとばかりに福々亭へと足を運んだ。入ってすぐ九条さんの姿を探したけど、まだ来ていないようだった。
もし現れたら今まで通りでいよう。彼女は無理だとしても、部下としてはこれからも変わらず側にいられるのだから。