溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜


「そういえば、九条さんから連絡あった?」
「いえ、ないです」
「どうするつもりかしら。指示出してもらわなきゃ帰るに帰れないわよねぇ」
「ですねぇ」

言いながら、予定の書かれたホワイトボードに視線を向けた。

九条さんは今度開かれるゲームの展示会の打ち合わせに遠方に行っている。もしこのまま連絡がなければ、私達下っ端は台風の中、事務所に缶詰になるかもしれない。

「ていうか、あんたまたコロパゴのゲームやってんの?」

ゲームを再開させた私に、ユリさんが鋭く突っ込む。

「はい! 最新のゲームが出たので! ちょっと息抜きに」
「好きねー。でも課金もほどほどにしなさいよ?」
「わかってますけど、それがやめられないんですよー」

最近メジャーになったコロパゴという会社のゲームに、私はどっぷりハマっている。コロパゴは私にとって神と言っても過言じゃない。そんな楽しげな私を、ユリさんはいつも呆れた顔で見ていた。

「ゲホゲホ」

そこに苦しそうな咳をする真壁くんが私の背後を通り過ぎた。

「真壁くん、風邪? 大丈夫?」

振り返り声を掛けると、マスクをした真壁くんがいて、私のその声で立ち止まった。

「あ、はい。でも大丈夫です。たいしたことないんで」
「本当? すごくきつそうだけど。あ、そうだ。私のど飴もってる」

そう言ってキャビネットからバッグを取り出すと、中をかきわけるように探した。
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