溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
なんとか満員電車を乗り切り、自分のマンションにたどり着いた。
風に雨に、人混みに。髪もモチベーションもズタボロ。こんな日はお風呂にゆっくりつかろうと、バッグの中の鍵を探しながらエントランスに入る。
だけどすぐ、ん?
探っても探っても、鍵がない。
嘘でしょと、変な汗が出そうになる中、バッグをひっくり返した。
「鍵、鍵……」
いくら探しても見つからなくて、その場でサーっと血の気が引くのを感じた。
失くした?どこに?朝は確かにあった。それ以外は出していないはずなのに……
「あ!」
あの時だ。飴を探すためにバッグをひっくり返した時。ということ、まさか会社?
そんな、どうしよう。今から取りにいく?
いや、無謀だ。だってさっきの電車が最後だとアナウンスがあった。
それならばタクシーと思い、スマホを手に取り電話をかけた。だけどそれもあっけなく撃沈。電車が止まったせいで、二時間待ちとのこと。もうため息しかでなかった。