溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
エントランスを潜り抜けられたとしても、家の中には入れない。一晩野宿?この台風の中?
「もう、最低……」
独り言を零しながらするすると壁を這うように座り込んだ。こんなとき、すぐに駆けつけてくれる彼氏がいたらな。頼れる友達がいれば。
……あ、そうだ、ユリさん電話してみよう!
確かユリさんの家はここからそんなに遠くなかったはず。そう思いユリさんに電話をかける。だが何度かけても留守電。唯一の頼みの綱のだったのに。
あぁ、どうしよう。こうなったら真壁くんでもいいや。一晩泊めてもらおう。
彼も一応男だけど、私相手に変な気なんて起こすはずがない。だいたい彼は風邪をひいている。一晩だけ。背に腹はかえられない。そう思いスマホをスクロールした。
と、その時。電話が鳴った。