溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「九条、ちょっと出ないか」
料理や酒を堪能し終えた頃、井上が海の方へ出ないかと誘う。日が沈みかけた浜辺に、男二人で歩くのもなんだか気が乗らなかったが、酔っ払いに絡まれるよりはましかと思いしぶしぶ席を立った。
「可愛い彼女だな、九条。彼女のためにも会社でかくしないとな」
昼間の太陽の熱を一心に受けた白い砂浜も、この時間になると少しだけ熱を下げていて、そこに踏み入れた瞬間、素足になった井上が明るい声で言った。
そんなこと誰に言われなくてもわかっている。それが西沢を幸せにする道だということも、西沢の両親を納得させる材料になることも。