溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「来期だっけ? 社長就任は」
「あぁ」
「手伝えることあるなら言えよ? 一緒にこの道を志した同志だろ」
完全に座り込み、子供のように砂をいじる井上が懐かしげに言う。これが世界にも通用するコロパゴの社長だとは誰も思うまい。
メディアにもたくさん取り上げられ、井上の顔はかなり売れている。だけどここに来てから日本人観光客が多いにも関わらず、一度も声をかけられることはなかった。
きっと井上の雰囲気がそうさせているのだろう。社長の風格を感じさせない。それでいていつだって謙虚だ。
現にこの結婚式だって少数の親戚と親しい友人だけ集め、南国の島でひっそりと行われている。