溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
ディスプレイもろくに見ず、ユリさんが折り返してくれたと判断した私は、もしもし、あのね!とまくしたてるように言った。
「実は鍵を会社に忘れちゃって、今からそっち行ってもいいですか?」
「はぁ? 何やってんだ、お前」
「えっ⁉︎」
だが返ってきた声は全く別物で。私が何より恐れているものだった。
「今どこだ」
「えっ……あっ、あの。何でもないです。すみません、ユリさんかと思って。失礼します」
「西沢、どこにいるんだって聞いてんだよ」
「……い、いえ、大丈夫です! 何でもないですから」
そう言うも九条さんはしつこく聞いてくる。