溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
夜だというのに辺りは煌々と明かりがついていて、いたるところから陽気な音楽が聞こえた。
湿度を含んだ風を受けながらプールサイドに腰を下ろすと、水面にはいくつもの明かりが浮かんでいて、まるで宝石のようだった。
こんなにゆったりとした時間を過ごすのはいつぶりだろう。日本じゃ時間に追われ仕事に追われ、こんな風に風を感じることも、何も考えずにぼんやりすることもなかなかできない。
贅沢とはこういうことかもしれないと思いながら、ふと隣に視線を移す。ここに西沢も居れば……。
なんてさらに欲張りたくなるが、彼女は生憎あのざま。今更だが朱音を恨んだ。
「九条さん……」
ビールを一口含んだところで、背後からか細い声で俺を呼ぶ声がした。