溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
振り向くと驚いたことに、フラフラとした足取りでこっちへ向かってくる西沢の姿があった。
「ごめんなさい、私眠っちゃったみたいで」
「いや、いいけど、大丈夫か?」
言いながら立ち上がり、デッキに降り立つ西沢を出迎える。
「ちょっと頭がズキズキしてますけど大丈夫です」
自嘲するように笑って、上目づかいで俺を見る彼女の手を取ると思わず顔が緩んだ。もう完全に諦めていた。このまま一人虚しく朝を迎えるんだろうって。
「あの、怒ってます?」
怖い顔をしているつもりはないのに、恐る恐るそう問う西沢。ここですぐ、全然、と答えてやればいいのだろうけど、ちょっといじめたくなる。
子犬のような顔で、俺の機嫌を伺う仕草がたまらなくツボなんだということを、本人はきっと知らない。