溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜



「夜はベッド使っていいから」
「そんな、悪いです。私は床で大丈夫ですので」
「いいから使え」
「う……はい」

相変わらずの命令口調。でも豪雨の中私を迎えに来てくれたり、ご飯作ってくれたり。優しいのか怖いのかよく掴めない人だ。

「じゃあ、お言葉に甘えてお借りします」

お腹も一杯なって、安堵したからなのか。急に睡魔が襲ってきて思いっきり伸びをした。

あぁ、台風いつ過ぎるのかなぁ。明日早朝に来いって言ってたけど、何時に起きればいいのかなぁ。

なんて考えていると、目の前からカシャンッという金属音が聞こえた。不思議に思い伸びをしたまま視線を向けると、九条さんがスプーンを落とし慌てて拾うところだった。

ん? 珍しい。そんなおっちょこちょいするなんて。だがすぐ、拾い上げたあと、

「リラックスするのはいいけど、無防備にもほどがあるぞ」

そう言われ、キョトンと首を傾げた。無防備って?

「男の前でそんな格好するな」

一度ため息をつき、呆れたようにそう言って私の胸元を指すと、九条さんは目も合わさずさっさとリビングを出て行った。

どうしたんだろう。怒らせた?なにか気に触るようなことをしてしまったのだろうかと、指を差されたほうへ視線を落とす。そこでやっとハッとした。

ブ、ブラ!!
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