溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
着いた先には驚くような光景が広がっていた。昼過ぎということもあり水は引いているが、水と一緒に押し寄せた泥や木々があたりに散乱していた。
私は福々亭に着くと迷わずドアを開ける。するといつものカウンターも、座敷も、泥まみれになっていて絶句した。
「おばちゃん!」
入り口で大きな声で叫んだ。だけど中からはいつもの笑顔も返事もない。私は泥の中を突き進んだ。
「青葉です! おばちゃん大丈夫?」
そう必死に何度か繰り返していると、奥の方から僅かに物音がした。
「青葉ちゃん?」
そして住居になったそこからおばちゃんが大きなスコップ片手に顔をだした。その瞬間ホッとため息がこぼれた。
「よかった、無事で」
「ごめんねぇ、せっかくきてくれたけど、ご覧の通りこの有様で。ごはんは出せそうにないよ」
「ううん、おばちゃんが無事か見に来ただけだから」
そう言うとおばちゃんがにこりと少し疲れた様子で微笑んだ。