溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
いつもお世話になってるんだ。このくらいさせてもらって当然。
とはいえ、スコップ一つで泥を掻き出すのは思った以上に大変だった。1時間たっても全然片付かない。周りの家の人も各々頑張っていて、頼めそうな人もいない。
「大丈夫? 無理しなくていいからね」
「大丈夫です! 体力だけはあるので」
心配させたくなくて強がってみるも、額から流れる大量の汗は誤魔化せなくて。それでも心配げに見つめるおばちゃんの視線にも気がつかないふりをして、ひたすら泥を掻き出した。
「い……たたた」
少しして、おばちゃんが腰を押さえしゃがみこんだ。
「おばちゃん! 大丈夫?」
すかさず駆け寄ると、おばちゃんの顔色は青白くて、疲労はピークに達しているように見えた。この暑さだし、お年寄りにできる作業ではない。
「おばちゃんは休んでて。私やるから」
「もういいよ、青葉ちゃん。これじゃいつ終わるか」
そう言っていまだ見通しの立たない店内を眺める。その顔には複雑な表情が浮かんでいる。
自分の大切な場所がこんなことになっているんだ。これからどうなるのか、お店は再開できるのか。口には出さないがきっとすごく不安だと思う。精神的なショックは計り知れない。