溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
それから二人で肩を並べオフィスに戻ると、ユリさんが私を見るなり、生きてたー!と半泣きになりながら抱きついてきた。
いったいどうしたのかと聞けば、どうやらなかなか戻ってこない私が流されたんじゃないかと、みんなで心配していたらしい。しまいには九条さんまでいなくなるし、連絡はつなかいしで、まさに通報寸前だったとか。
そういえばさっきスマホを取り出した時、ユリさんからの着信が何件も残っていたな。まさかそんな騒ぎになっているとは。
「心配したのよ」
「すみませんでした」
「うわ、やだ西沢、泥だらけじゃない」
「えっ、わっ! 本当だ」
自分の汚さに初めて気が付き、ビックリする。靴もズボンも泥だらけだ。
「確か仮眠室に着替えがあったので、着替えてきます」
「それがいいわ。それにしても九条さんも九条さんよね~。みんなが心配してるのを知ってるくせに、電話一本もよこさないんだもん」
そうなんだ。まぁ彼らしいといえば彼らしい。そんな当の本人は騒ぎ立てるユリさんに目もくれず、スタスタと持ち場に戻る。