溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「ここの店、一度来てみたかったんですよね〜。インスタ映えするって評判ですし」
「私インスタやってないし」
「えー! そうなんですか! そんな人いるんですね」
未知の生物でも見るような目で私を見て大袈裟に驚く。悪かったな、古臭い人間で。それにSNSに自分のプライベートさらせるほど充実していないんです。
「ちょっと西沢さん、これ持っててください」
「へ?」
「早く」
突然そう言ってぶすっとする私に、チーズの入った熱々のホーロー鍋を持たせる。真壁くんは慣れた様子で、角度や光の加減を微妙に変えながら、シャッターを切りまくる。
「熱いから早くしてよー!」
「もう少しの辛抱です」
どうして熱いの我慢してまで撮らなきゃなんないわけ?全然理解できない。それより早く食べさせて!
散々撮影に付き合わされ、残ったものは冷えはじめたチーズフォンデュ。チーズ大好きなのに……。粗末にしやがって。
「西沢さん、下手くそ」
すると、ミニトマトを刺すのに手こずっていると、真壁くんがこうやってやるんですよ、と言って手を重ねてきた。自然と近づいてきた顔に思わずドキリとする。
いつも引っ付き虫で、こんなこと慣れているはずなのに、この雰囲気のせいなのかプライベートのせいなのか、心臓が聞き慣れない音を立てる。相手はあの真壁くんなのに。