溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

「西沢さんのことだから、どうせ仕事終わったらデートもせず、真っ直ぐ家に帰るんでしょ。本当仕事バカですよねぇ」

平然を装う私に、真壁くんが呆れたような視線を向けそう言う。悪かったな、仕事バカで。別に好きでそんなルーティーンを送っているわけじゃない。まだまだ半人前な上に、鬼上司に目をつけられてしまったから必然とそうなってしまっただけで。

当初の予定は、もっと素敵なアフターファイブとやらを楽しんでいるところだったんだ。

でももう今では徹夜、残業、寝不足がすっかり当たり前になってしまって、今更この生活を変えられそうにない。

「じゃあ今度、コンパしません? 俺、誘いますよ!」
「いや、いい。ていうか、行ったことないし」
「えーっ! マジで! それ寂しすぎでしょ」

大げさに驚く真壁くんだが、無理もない。彼氏もいなければコンパにも行ったこともないなんて、女の子大好きな真壁くんからしたら私なんて宇宙人くらい不思議だろうから。

「西沢さんのタイプの奴揃えておきますから、行きましょうよ!ね!」
「いいよ、興味ないから。それに女友達いないし」

口にして改めて思った。我ながら地味すぎる上京生活を送っているなって。友達も趣味も、なにももっていない。あれ? 私、こんなやつだったっけ?

「それって男に興味ないってことですか? つうか、彼氏、いつからいないんです?」

そう聞かれ、思わず指折り数える。

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