溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「聞いてくださいよ、ユリさん。さっき真壁くんたら」
私は来て早々さっきの出来事を愚痴り始めた。ユリさんは静かにグラスビールを傾ける。
「最低な男だと思いません? ちょっとドキッとした私がバカでした。あぁいう男ですよね、真壁くんて。あーもうっ、本当ムカつく!」
思いっきり叫ぶと、少しすっきりした。ユリさんが来てくれてよかった。じゃなきゃこの消化しきれないイライラを持てあますところだった。
「でも実はちょっと嬉しかったんですよね。久しぶりに可愛いとか言われて、女の子扱いされて」
皮肉にもそう思っている自分がいる。もうずいぶん男の人に触れられてもいないし、ドキドキするような感情も抱いていない。真壁くんの言う通り完全に干乾びてしまっている。
「恋、したいなぁ」
そこまで言い終え気が済んだのか、ここでプツリと記憶が途切れた。僅かに残っているのはふわふわとする浮遊感と、いつかと同じ、大人の香りの記憶だけ……。