溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「あら、そちらは会社の方?」
私の隣に腰掛けたユリさんを見て、おばちゃんが不思議そうに言う。
「あ、はい。こちらユリさんです」
「西沢がいつもお世話になってます」
一際目立つユリさんがおばちゃんに保護者のごとく挨拶をする。
大きな胸が強調される黒のノースリーブに、花柄のタイトスカート。それに足元は15センチは優に超えるピンヒールという姿。
そんなユリさんはこの昭和の匂い漂う店内で、どっからどう見ても浮いている。心なしか周りからチラチラと視線を感じるし。
「今日はなににする? 青葉ちゃん」
「う〜ん、どうしよう。迷っちゃうなぁ。サバの味噌煮定食もいいし、冷やし中華も捨てがたい」
メニューを眺めそう零す私を、おばちゃんがニコニコしながら待ってくれている。
あの台風被害から福々亭はしばらくお休みしていたけど、つい最近完全復旧し営業を再開した。ここに来ると心からホッとする。やっぱり私の安息の地。