溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

「なんだよ二人して」

私達の視線に気がついた九条さんが、冷たい口調で突っ込む。

「いっ、いえ。なんでもないです!」

大袈裟に手と顔を左右に振ると、九条さんはふいっと視線を逸らし私と同じサバの味噌煮定食を注文していた。皮肉にも食べ物の好みが同じなんだよなぁ。

「ユリまでどうしたんだよ、珍しいな」

視線だけ寄越し、ぶっきらぼうにそう言う九条さん。その質問にユリさんはふふっと笑って首をすくめる。

「どうしたもこうしたも、女同士でランチに決まってるじゃな〜い」
「冗談きついな」

そう言って九条さんはククッと喉を鳴らし笑う。なにがそんなにおかしいんだろう?

「西沢、」
「はっ、はい!」
「さっきお前に頼んだ案件だけど、明日クライアントのとこへ行くからお前も来い」
「え? 私もですか?」
「あぁ。作るのがどんなやつかわからないと、向こうも不安だろうから」
「わ、わかりました」

さっきは上の空だったけど、よくよく考えたら珍しいな。うちは自社開発が主で、クライアントに出向くような仕事はほとんどない。九条さんがそんな仕事受けるなんてどういう風の吹き回しだろう。

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