溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

さっきの発言もそうだし、前にも野獣っぽい顔に罵られたいって言っていた。

今も上目使いで媚びているような仕草で、それでいて女の顔をしてる。もしあの二人が付き合い始めたら、ユリさんは九条さんのあの裏の顔を見るのかな。目尻を下げ笑う姿を。

そして私がしてもらったみたいに男飯を作ってもらって、夜は無防備な寝顔を……

「……い、った!」

二人の姿ばかり気にしていたものだから、行き慣れたはずのトイレのドアにぶつかってしまった。

「うぅ〜最悪」

しかも思い切り突っ込んだものだから、一瞬真っ白になった。どこまでもバカな私。余計なことばかり考えているからこうなる。

だいたい二人が結ばれたらめでたいじゃないか。ユリさんにはお世話になっているし、幸せになってもらいたい。そう頭ではわかっているのに、気になる自分がいる。

「どうしてだろ」

肩を並べて座っていた二人の姿を思い浮かべながら個室に入り便座を下げると、いまだズキズキと痛む鼻を抑えながらその場に座った。

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