隣人はヒモである【完】
彼を取らないで。なんて。私にはあの人しかいない。なんて。
そんな風に思える人に出会えるって幸せだろうか。
どちらかといえば彼女、秋元さんは不幸そうだけど。人の幸せなんて人それぞれで、あたしがとやかく言ったところでどうもならないけど。
あの男はただのヒモだ。
秋元さんの首を絞める紐。
いつか絞め殺してしまう紐。
でも命綱にもなる紐。
それがほどけても、やっぱり彼女を殺す紐。
あの人を幸福にはしない。
しんとした部屋で、さっき秋元さんが言った言葉すべて、細かな表情のひとつひとつを慎重に思い返してみたけれど、やっぱりどこか少しだけ、羨ましいと感じてしまう。
あんな風に人を思えるあの人にも、思われるその人にも。
気が狂った結果なの?
と、芙美が昼間言っていた言葉を思い出す。
狂ってるだろうか。
どうなってしまうんだろう、あの人たちは。この先。永遠に変わらないのだろうか。ダメ男はダメ男のまま、ダメ女はダメ女のまま。一生二人であの狭い部屋で、毎晩大きな声をあげて、ずっと縛りあって生きていくのだろうか。
——そんなの、おかしくて、不思議なのに、なぜか否定できない。
だってあたしには到底真似できそうもない。