隣人はヒモである【完】
かちゃりと音を立てて鍵は開いたけれど、隣人は話しかけてくる気配もない。
というか微動だにもしない。
逆に心配になってきてちらりと視線を投げれば、なんとまあ不運にも目が合ってしまった。というか、目は相変わらず長い前髪で隠れていてわからないんだけど。合った気がした。うん、多分合った。と思う。
……なんで一緒のタイミングなんだ。あたしついてない。
「……こんにち……あ、こんばんは」
「……どーも」
……どうしたのか聞いた方がいいの?
余計なお世話?
いや、よく見たらこの人びしょ濡れじゃないか。傘持ってないの? ていうか家に入ればいいのに。
……なんか、自分ちに戻りにくいじゃないの。
「……どうかされたんですか?」
結局気まずさに負けて、会話を続けてしまった。ついうっかり。
気になりはするけど、関わらない方が賢明だということを分かってはいるのに。
おじさんはまたあたしの方を見て、かすかに笑った。気がする。気のせいかもしれないけど。