隣人はヒモである【完】




口元は固く結ばれて、口角なんてむしろ下がっているようなのに、なぜか笑っているように見えた。


気持ち悪い男。


そう思うのに、目をそらすことが出来ずにいたあたしをスルーし、彼はそのまま自身の部屋へと姿を消した。



――その男は、あたしがアパートに越してきた半年前には、既にその部屋に住んでいた。


その男のことであたしが知ってることと言えば、どうやら無職で、女と住んでいるということ。


ちなみに、その女のほうはいやに真面目な感じのOLで、いつも似合わないベージュのスーツに身をくるみ、傷んだ黒髪を後ろでひとくくりにしており、似合ってない銀縁眼鏡が印象的だ。


推定20代半ばだが、例の眼鏡のせいか、どうも老けて見える。


家賃はもちろん、生活費のほとんどを彼女が負担し、男は自由気ままにだらだらとしたクズみたいな生活を送っているということは、半年も隣人をやっていればなんとなく気付く。


いわゆる、ヒモというやつなんだと思う。


こんな真面目で地味な女性がヒモを飼っているということに好奇心を刺激され、毎夜毎夜聞こえる男女の息遣い、喘ぎ声に耳をそばだてずにはいられなくなっている。


レオ、と、男を呼ぶ女の狂ったような絶叫には時々ビビるけど。


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