隣人はヒモである【完】
しめしめと前髪に手を伸ばしてかき上げてやれば、光のともらない虚ろな瞳がぼうっと扉を見ていた。
やっぱりまだ酔っているらしく、特に抵抗するようなそぶりは見られない。
大学を休んだ価値があった気がして、あたしはこれだけで満足するつもりだったのに、欲が出た。
こっちを見てほしい。そんな風に思った。
「あの」
「……」
問いかけたけど反応はない
「聞いていいかな」
「……」
「あたしが大学を卒業して、就職したら、あの人じゃなくてあたしがあなたを飼いたいって言ったらどうする?」
……ん?
早口で紡がれた言葉が、自分の口から出て、耳にすっと入ってきて、そのあと脳内で理解した。
あたしは何を言ったんだろう。
自分で自分自身にぞっとした。
……あたしが飼いたい? ヒモ男を?
どうしてそんなことを。言ったんだ、あたしは。
「え?」
あたしの思惑通り、とは思いたくないけど、この人はゆっくりと首をもたげ、あたしの方へ視線をよこした。
前髪が揺れて、見たくてたまらなかった、この目に見つめられたかった、黒い瞳に強烈に惹きつけられる。
乾いたような笑いを添えたけど、レオさんは真顔のままだ。
目どころか、口元ですら笑いを繕おうとしていない。ただ声だけ。笑っているふりをしているのか、この生き物の純粋な鳴き声なのかよく分からなかった。