隣人はヒモである【完】
「……俺はペットじゃねーのよ」
長い間をためてレオさんが呟いた言葉は、人間として、至極真っ当な言い分だった。
6つも7つも年下のあたしみたいな小娘にそんな風に言われるなんて、いくらなんでもムカつくだろうか。
愛玩動物扱いされたと思い、怒るのは当然だろうか。
「……ペットていうか、」
いや、受け入れられても困っていた。
実際にあたしが社会人になるのは、順当にいってもあと3年少しあるし、それまでこの男にずっと執着し続けている自分なんて想像できない。
それなのにあたしは言い訳がましく、何かこの人が魅力に感じられるような言葉を必死で探そうとしている。
だけどうまい言葉は見つからず、もどかしい気持ちで手を伸ばし、彼の頬に触れた。
想像よりも温かで驚いた。
「……人間だよねえ」
ぼそりと呟けば、一瞬、前髪の奥でこの人の目が動揺で揺れた気がした。
ヒモ男だろうが、男は男だ。
あの女の人の首を絞める冷たい首吊り紐は、あたしにとって男だ。
モノじゃない。
あの人、秋元さんにとっても、この人は、彼女の命を弄ぶ軽薄なヒモでも、命綱でもなんでもなく、ただの男なのかもしれない。
この人は魅力的だ。悔しいけど。どこがとは説明しようがないけど。