隣人はヒモである【完】
体の芯がぎゅうと熱くなる感覚があった。
まともに会話するのなんてただの二度目なのに、言葉にできない感情が沸きあがってくる感じがあった。
隣の女を可哀そうと馬鹿にしていた自分と今の自分とは別人のようだった。
あの日から、何も変わらない日々を過ごしていたと思っていたのに。
会わない期間であたしの中身が、別の何かと入れ替わったのだろうか。
それとも、気付いていなかっただけで、あの日既に全てが変わってしまっていたのだろうか。
それとも、今日? だとしたら、いつ、どのタイミングで。
こんな不潔で卑怯でみっともない人間。あたしは、こんな人間にも、こんな人間にすがらなきゃ生きられない秋元さんのような女にも、なりたくないと思っていたはず。
……どうしてそんな風に思っていたんだろう。
「……君は、」
再び訪れた長い長い沈黙を先に破ったのはレオさんの方だった。
あたしは。
唾の糸を引かせて、彼は酒臭い息で喋る。
「可哀そうだ」
「え」
「俺に似てる」
あの女の人にではなく? この人自身に。
一体どこがそうだというのだろう。