隣人はヒモである【完】
「……こんなことされて、もう会いたいと思えないよ」
自分の口から発せられた掠れた声に、るいくんは一瞬驚きで目を見開き、すぐ悲しそうに目を伏せた。
「あたしたち、付き合ってたわけでもないのに」
「それは穂波が付き合ってくれないから」
「好きあってるわけでもないのに、付き合う理由こそなかったじゃない」
「俺は好きだったよ穂波のこと。高校生の頃からずっと」
そっか。と思う。
やっぱりか、とも。
だけど心が動いたりはしなかった。
苦しそうに絞り出すように言葉を紡いだるいくんが、あたしの両手を握って、あたしを覗き込むように屈んだ。
その手はすごく冷たくて、少しびっくりした。
「……なんで今まで会ってくれてたの?」
「なんで、って」
「少しでも俺のこと好きだと思ったことないの」
「……分からない」
「分からないならこのままでもいいじゃん」
「……ごめん」
のらりくらり、暇つぶしの、面倒のないいつでもぷっつり切れる糸のような不確かな関係、そういうものであることを望んでいたのはるいくんも同じだと思っていたから本当に驚いた。
というか、あたしが望んでいたというよりは、るいくんが主導してこういう関係を築き上げたんだと思ってた。